2022-01-01から1年間の記事一覧
ニューヨークに暮らす68歳のエプスティーンは、何事にも精力的に立ち向かい、弁護士としての成功と円満な家庭を築いてきた。しかし両親が亡くなった頃から、不思議な行動をとるようになる。長年連れ添った妻にあらかたの財産を渡して離婚し、友人と共同経営…
2021年11月、ジョン・アーヴィングがFacebookに投稿した。自分の最後の長篇は、2022年10月刊行になるだろう、と。1942年生まれのアーヴィングは今年80歳。『神秘大通り』から7年、15作目の長篇、”The Last Chairlift”は10月18日に…
2020年夏、38歳のフリーライター横多平が父島行きのフェリーに乗る。東京から父島まではおよそ1000キロ、まる24時間の船旅だ。島に向かうきっかけとなったのは、八木皆子と名乗る人物からのメールだった。冒頭の挨拶はいつも「おーい、横多くん」。八木皆子…
二〇二〇年にEテレ「100分de名著」で『ピノッキオの冒険』が取り上げられた。朗読は俳優の伊藤沙莉さんで、ちょっと鼻にかかっただみ声のやんちゃな様がピノッキオにぴったりで素晴らしかった。のだが、番組を見て何より驚いたのは、イタリアの「子ども新聞…
6月、小田嶋隆が病気のため65歳で亡くなった。コラムニストとして長きにわたり活躍した彼が、〈「本当のことを書く」という縛り〉を外して書いた物語を集めた本書『東京四次元紀行』には、「残骸−−新宿区」「地元−−江戸川区」といった具合にタイトルに区名…
一九七〇年代前半に日本で放映されたテレビアニメを振り返ると、なぜか動物擬人化ものが目立つ。ネズミたちの船旅を描く「ガンバの冒険」や、アマガエルとトノサマガエルが恋に落ちる「けろっこデメタン」、ハゼの男子が主人公の「ハゼドン」、黒いヒヨコの…
〈文学の棚なのか、紀行エッセイの棚なのか、地図の棚なのか、書店が置き場に悩むような本である〉――訳者あとがきの冒頭にある一文は、本書を手に取った読者の戸惑いを見事に言語化している。視界に飛び込む鮮やかなライトブルーの表紙に惹かれて手に取れば…
静かな声で雄弁に語るレアード・ハントの到達点 『ゾリー』“Zorrie”Laird Hunt Bloomsbury Publishing 柴田元幸は多くの現代アメリカ文学を翻訳、紹介してきた。ポール・オースター、スティーヴン・ミルハウザー、スティーヴ・エリクソンなど、大作家から「…
仏作家ピエール・ルメートルの現時点での邦訳単行本最新刊(※1)『僕が死んだあの森』の訳者あとがきを読んで驚いた。なんと彼は、2021年5月にフランスで発表した長編(※)が〈自身にとって「最後のミステリー」となる〉と宣言しているというのだ。 ルメート…
現代ロシアを代表する女性作家、リュドミラ・ウリツカヤの『緑の天幕』が刊行された。分厚い大長篇に二の足を踏むあなたに、ウリツカヤ三段階攻略法を伝授しよう。 ノーベル文学賞候補とも目されるウリツカヤの小説は、奇をてらったものではない。市井の人を…
「きみに、話してあげたいことがある」と始まる物語だ。語り手のマヤは女子高校生。「ちゃんと順を追っていかないと、きみの頭がこんがらがってしまう」から、「クマさんとミユキさんが出会うところから」話を始めてくれるという。 マヤの母・ミユキさんは夫…