書評王の島

池袋コミュニティ・カレッジで開講中の「書評の愉悦ブックレビュー」で王に選ばれた書評を紹介するブログです。

2020年に読んだ私的ベスト3

 新型コロナウイルス感染症の流行に翻弄された、2020年のプロレス界と私。生観戦のできない緊急事態宣言期間中に、プロレスへの関心を保つ助けとなったのが、『玉袋筋太郎のプロレスラーと飲ろうぜ』(白夜書房)だった。

玉袋筋太郎のプロレスラーと飲ろうぜ

玉袋筋太郎のプロレスラーと飲ろうぜ

  芸人・玉袋筋太郎が、構成作家椎名基樹とプロレスライター・堀江ガンツと共に、ゲストのプロレスラーたちと酒を飲みながらそのレスラー人生を掘り下げていく本書。登場するレスラーは、酒の入った状態で皆ぶっちゃけまくる。
 たとえば、1997年に女子プロレス界初の三冠王者となった井上京子。所属していた全日本女子プロレスのギャラ未払いに7ヶ月気づかないまま試合をしていたというエピソードにはじまり、若手時代に給料が安すぎてティッシュを食べて飢えを凌ぎ最近久しぶりに食べたら昔より甘い味のした話や、一緒に酒を飲んでいた先輩レスラーのブル中野が朝方に試合用のメイクと髪型のまま自動販売機の横で寝ていた話や、会社に内緒で学生プロレスの練習に参加してプロにはない技術を研究していた話など、彼女がシャンパンをあおりながら語るエピソードはそれぞれに面白さの質も違うから、読んでいて飽きがこない。
 なにより、ホスト役の玉袋が井上に〈もうたまんねえな。惚れちゃうね〉と漏らすように、最後にはどのゲストのことも好きになり、試合を見てみたいという気持ちにさせてくれるのが本書最大の魅力なのである。
 緊急事態宣言が解除されると、通常の興行も徐々に再開となる。そこで気になったのが、外国人選手たちの不在だ。日本人選手にはない身体能力やパフォーマンス力を持つ彼らのいない興行に物足りなさを感じ、入国制限が緩和されると、わざわざ隔離期間を経て参戦してくれることに頭の下がる思いだった。


 日本マット界で活躍したレジェンドレスラー10人の知られざる素顔と晩年を綴った斎藤文彦忘れじの外国人レスラー伝』 (集英社新書)は、そんなコロナ禍でも世界を股にかけて闘う外国人レスラーたちの心理を窺い知る手掛かりとなる一冊だ。

忘れじの外国人レスラー伝 (集英社新書)

忘れじの外国人レスラー伝 (集英社新書)

  • 作者:斎藤 文彦
  • 発売日: 2020/11/17
  • メディア: 新書

  一つの団体に定着すると勝ち続けて戦う相手がいなくなり飽きられるからと、世界各地をスポット参戦で周り続けた “大巨人”アンドレ・ザ・ジャイアント。1975年にアントニオ猪木と60分フルタイムドローの激闘を繰り広げてから24年後、レスリングジムのコーチとして招かれて60歳で日本に引っ越してきた”人間風車ビル・ロビンソンなど、登場するレジェンドレスラーたちに共通するのが、一箇所に落ち着くことなく移動し続けることを厭わない性分だ。
 この性分は今の外国人レスラーたちにも脈々と受け継がれ、コロナに対する不安をも乗り越えて日本まで来ているのではないかと想像したくなる。
 声を張り上げ、密になってなんぼの競技であるプロレスは、2021年どんな展開を見せていくのか。どの団体も、感染者の発生による対戦カードの変更やライバル・因縁ストーリーの中断といった可能性を常に抱え、不確定要素の多いことは間違いない。


 『捻くれ者の生き抜き方』(日貿出版社)で、どんなテーマを持って試合に臨むのか、なぜこの技をこのタイミングで出すのかといった「整合性」の重要さを説き、〈プロレスの「適正」は、プロレスのことを考え続けられること〉だと記す著者のフリーレスラー・鈴木秀樹。この選手はコロナ禍のプロレス界において、イレギュラーな状況でもぶれずに力を発揮することで、頭一つ抜ける存在となりそうだ。

捻くれ者の生き抜き方

捻くれ者の生き抜き方

  • 作者:鈴木秀樹
  • 発売日: 2020/10/24
  • メディア: 単行本

  彼がフリーランスのレスラーとして生き抜く秘訣を語る本書には、ギャラ交渉における金額の算出方法やSNSとの付き合い方、団体やスポンサーとの関係性など、ビジネス書かと思うようなパートも含まれている。そんなプロレス本っぽくない一面にも、お決まりの展開を嫌うファイトスタイルの鈴木秀樹らしさが表れていていい。

 

2021年1月書評王:藤井勉
リアルサウンド ブック」で書評を書いております。
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共著『村上春樹の100曲』(立東舎)が発売中です。
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