書評王の島

池袋コミュニティ・カレッジで開講中の「書評の愉悦ブックレビュー」で王に選ばれた書評を紹介するブログです。

【作家紹介シリーズ】門井慶喜

書いた人:関根弥生 2019年5月書評王
初の書評王に興奮覚めやらぬ翌週、『夢の日本の洋館』発刊記念のトークイベントに行ってきました。直に聴く門井さんの〈建築ウンチク〉は、まさに圧巻。至福のひと時でした。

ぼくらの近代建築デラックス! (文春文庫)

ぼくらの近代建築デラックス! (文春文庫)

  初めに「この人すごいなぁ」と思ったのは、『僕らの近代建築デラックス!』でした。『プリンセス・トヨトミ』などで人気の小説家万城目学氏と共に、大阪にある辰野金吾日本銀行や東京駅を設計した超メジャー級建築家)の作品を皮切りに、京都、神戸、横浜、東京(文庫版では台湾編も所収)に遺る近代建築を巡りながら、二人が語るあれやこれやをまとめた1冊ですが、この「あれやこれや」の中身が実に濃いのです。 
〈建築ど素人〉を名乗りワトソン役に徹して、見るもの全てに鋭く(ほぼ)感性(のみ)で果敢に斬り込んでいく万城目氏に対し、門井慶喜氏(ペンネームではなく歴史好きの父が名付けた本名)は、建築様式から時代背景、手がけた建築家や施主の半生などなど溢れんばかりの〈建築ウンチク〉を披露します。その圧倒的な質量にも関わらず、鼻につくような嫌味が一切ないのは、建築物のみならず、困難な時代にそれを建て、守ってきた人々への敬愛の念が、蓄積された知識を汲み上げるポンプとなっているからでしょう。

美術探偵・神永美有 天才たちの値段 (文春文庫)

美術探偵・神永美有 天才たちの値段 (文春文庫)

  門井氏は2003年、少年が起こした狂言誘拐を描いた短編ミステリ「キッドナッパーズ」でデビューして以降、『天才たちの値段』など美術品の真贋を舌で(!)見極める美術探偵・神永美有シリーズや、明治期に近江商人となった建築家メレル・ヴォーリズの一代記『屋根をかける人』など、建築、美術、歴史上の人物をテーマとした多くの作品を上梓しています。

マジカル・ヒストリー・ツアー ミステリと美術で読む近代 (角川文庫)

マジカル・ヒストリー・ツアー ミステリと美術で読む近代 (角川文庫)

  2016年に日本推理作家協会賞(評論その他の部門)を受賞した『マジカル・ヒストリー・ツアー』は、英国史上最悪の王として名高いリチャード三世の肖像画や、当時は酷評されたマネの「草上の昼食」などの絵画と、名探偵ホームズが誕生した『緋色の研究』や、中世イタリアの修道院を舞台にした連続殺人事件『薔薇の名前』などのミステリを手掛かりに、「近代」とはどのような時代であったのかをスリリングに読み解いていく快作です。
 できるだけ〈わかりやすく書くこと〉を自身に課した、とあとがきにある通り、情報量は膨大かつ縦横無尽でありながら、非常にリーダブル。〈むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく〉とは、かの井上ひさし氏の言ですが、門井作品はどれもさらりとこれを実践しているのです。

【第158回 直木賞受賞作】銀河鉄道の父

【第158回 直木賞受賞作】銀河鉄道の父

  直木賞を受賞した『銀河鉄道の父』では、詩人で童話作家宮沢賢治の父、政次郎に焦点をあて、現代にも通じる父と子の愛情や葛藤を描き出しました。花巻の豪商で町会議員も務めた人物ですが史料はないに等しく、丹念に事実を拾い出すのは〈砂金を集めるよう〉だったと語っています。そして、評伝ではなく小説という手法をとることで、赤痢に罹った賢治を病院に泊まり込んで看病したり、高価な標本箱を買い与えたばかりか、長男である賢治が家業を継がず創作の道に進むことを煩悶しながらも黙認したりといった、厳格なように見えて、当時としては相当に型破りで親バカな政次郎像を鮮やかに浮かびあがらせました。
 尽きせぬ興味と調査力に裏打ちされた知識、資料の行間を埋める想像力と、難しいことも平易に伝えられる豊富な語彙、そして、一貫して〝人″に向けられるまなざしの温かさ。これらの類稀なる融合が、門井慶喜氏の真骨頂なのだと思います。

日本の夢の洋館

日本の夢の洋館

  このほど、もっと〈建築ウンチク〉を!の願いが天に届いたのか、『夢の日本の洋館』が刊行されました。華麗ながら〈意外にも内装が戦争くさい〉迎賓館赤坂離宮や、新一万円札の顔となる近代経済の父、渋沢栄一の〈理想のさびしさ〉が体現された青渕文庫など、明治から昭和初期までに建てられた洋館31棟の美しい写真と、門井氏による語り口そのままの解説は3,800円+税以上のお値打ち。惜しむらくは、舌鋒鋭いワトソン君の不在ですが、それはまた次回に乞う期待ということで。

 

【紹介した本】
・『ぼくらの近代建築デラックス!』万城目学・門井慶喜著/文藝春秋(文春文庫)
・『キッドナッパーズ』文藝春秋(文春文庫)
・『天才たちの値段』文藝春秋
・『屋根をかける人』角川書店
・『マジカル・ヒストリー・ツアー』角川書店(角川文庫)
・『銀河鉄道の父』講談社
・『夢の日本の洋館』枦木功写真/エクスナレッジ