書評王の島

トヨザキ社長こと豊崎由美さんが講師をつとめる書評講座で、書評王に選ばれた原稿を紹介するブログです。

梨木香歩『椿宿の辺りに 』

書いた人:横倉浩一 2019年7月書評王 都内私立男子校の国語教師。徳之島の闘牛を愛し、毎年GWにかの地を訪れることを恒例としている。バツイチ独身、からの最近再婚。 この春、私の尻にメスが入った。命に関わる宿痾ではない。しかしあれは予期せぬタイミン…

【作家紹介シリーズ】少年アヤ

日記文学、というジャンルがある。平安版・夢見るオタク少女の回想記である『更級日記』、何気ない出来事を独特の観察眼で綴った武田百合子の『富士日記』など、日々の記録から生活を覗き見しつつ追体験できるような親近感と、そこから浮かびあがる社会の空…

【作家紹介シリーズ】門井慶喜

書いた人:関根弥生 2019年5月書評王初の書評王に興奮覚めやらぬ翌週、『夢の日本の洋館』発刊記念のトークイベントに行ってきました。直に聴く門井さんの〈建築ウンチク〉は、まさに圧巻。至福のひと時でした。 ぼくらの近代建築デラックス! (文春文庫) 作…

田中小実昌『新編 かぶりつき人生 』

書いた人:白石秀太 2019年2月書評王目下フランク・ミラー作『シン・シティ』にドはまりしています。大大大傑作コミックです。 さぁさぁお立合い。御用とお急ぎでなかったら、ゆっくりと聞いておいで見ておいで。あと一年で当ミレニアムも二十年となるわけだ…

「ビッグ・クエスチョン」に魅せられたい人に薦める3冊

書いた人:山口裕之 2019年4月書評王朝、ちょっと早く出て、出勤前にあちこちの立ち食いそばを食べてます。人形町「福そば」で食べた春菊天玉480円が絶品でした。 車イスの天才・ホーキング博士(※1)は、2018年3月に76歳で亡くなった。アインシュタイン以…

【作家紹介シリーズ】今こそ読み返したい永沢光雄

書いた人:林亮子 2019年3月トヨザキ社長賞法律関連出版社勤務。永沢光雄ファン歴20年。折に触れては何度も読み返しています。『AV女優』は第2弾の『AV女優2――おんなのこ』もおすすめです。Kindle版もあります。 永沢光雄さんへ。2006年11月1日、酒の飲み過…

村田喜代子『エリザベスの友達』書評

書いた人:関根弥生 2019年2月社長賞2018年11月から書評講座を受講しています。→Pia-no-jaC←ファン。公務員。 村田喜代子は老女を描くのがうまい。『蟹女』や『望潮』などうっすらと漂う狂気に戦慄させられる作品も多いが、『エリザベスの友達』は少し趣が…

ジョン・チーヴァー 『巨大なラジオ/泳ぐ人』書評

書いた人:白石秀太 2019年1月書評王 最近ようやく自分はただの海外エンターテインメント好きでしかないという自覚に至りました。 J・D・サリンジャーがのちの自選短編集『ナイン・ストーリーズ』の収録作の数本を書き上げ、トルーマン・カポーティが短編…

【作家紹介シリーズ】年の瀬に読みたい伊藤礼

書いた人:田仲真記子 2018年12月書評王最近ますます書評講座が心の支えです。 年末と言えば…… いまどきおせち料理を作る人も少ないようですが、年の瀬になればスーパーで正月用の食材を見かけます。この時期だけ出まわるもののひとつがクワイ。ピンポン玉大…

トンマーゾ・ランドルフィ『カフカの父親』

書いた人:藤井勉 2018年12月ゲスト賞共著『村上春樹の100曲』(立東舎)が発売中です。http://rittorsha.jp/items/17317417.html 短篇集『カフカの父親』を読んだあなたはきっと、いつもと違う年末年始を迎える。帰省して実家で過ごすあなたは思い出す。本…

近松秋江『黒髪』書評

書いた人:山口裕之 2018年10月ゲスト賞講座では学生時代からのあだ名の「ルー」で呼んでもらってます。カレーは食べるのも作るのも好きですが、どちらもルゥを使わないのが好みです。 「情痴文学」といっても『黒髪』には色っぽいことは一切書かれていない…

近松秋江『黒髪 他二篇』

書いた人:藤井勉 2018年10月社長賞共著『村上春樹の100曲』(立東舎)が発売中です。http://rittorsha.jp/items/17317417.html ここ2年近く、盛り上がりを見せている文豪ブーム。アニメ『文豪ストレイドックス』と共に、その火付け役となったのが「文アル…

町屋良平『しき』

書いた人:小林紗千子 2018年9月書評王船橋で司書をしています。電子書籍リーダーがほしい。 町屋良平の描く若者たちは、それぞれに感じやすくざわめく心と身体を持て余している。2016年に文藝賞を受賞したデビュー作『青が破れる』ではボクシング、今作では…

ジョセ・ルイス・ペイショット 『ガルヴェイアスの犬』

書いた人:田仲真記子 2018年9月社長賞大好きなタダジュンさん装画の作品で社長賞!格別にうれしいです。 1984年1月、宇宙の果てを高速で出発した「名のない物」は、標的のポルトガルの小さな村ガルヴェイアスを捕らえて大爆発し、原っぱにあいた巨大な…

ドナルド・E・ウェストレイク『さらば、シェヘラザード』

書いた人:白石 秀太(しらいし しゅうた) 2018年8月度書評王同志社大学文学部美学芸術学科卒。会社員 まず誰が何をする話かを手短にいってしまうとポルノ小説のゴーストライターがタイプライターを打っているだけの話である。では何を書いているのかという…

多和田葉子『地球にちりばめられて』書評

書いた人:田仲真記子 2018年7月書評王この夏は飯嶋和一ブームが来る予感です。 前作にあたる作者の2017年の作品『百年の散歩』に、ドイツに亡命したウイグル人ジャーナリストがミュンヘンで串焼き羊肉を売って暮らしている、という話を引き合いに出し、…

移民について考えたいあなたにおすすめしたい3冊

書いた人:長澤敦子 2018年6月書評王 ・『地球にちりばめられて』 多和田葉子 ・『マッドジャーマンズ ドイツ移民物語』 ビルギット・ヴァイエ ・『蒼氓』 石川達三 米国人の定義について考えたことがある。様々な移民を受け入れ発展してきた彼の国ではアメ…

グレアム・スウィフト『マザリング・サンデー』

書いた人:和田M 『ホライゾン・ゼロ・ドーン』(PS4)というゲームを5月だけで200時間以上やってしまいました。労災おりますか? まず、タイトルの「マザリング・サンデー」という言葉が気にかかる。母する日曜? 数ページ読み進めると〈母を訪う日曜〉とい…

ジェローム・K・ジェローム『ボートの三人男 もちろん犬も』書評

書いた人:村山弘明 2018年6月度書評王書評講座に3年1ヶ月通って初の書評王です。奇跡! ひとは自分の都合のいいように物事を解釈しがちな動物である。それは十九世紀であろうと二十一世紀であろうと変わらない。 『ボートの三人男』の舞台は、ロンドンとオ…

アキール・シャルマ『ファミリー・ライフ』

書いた人:小平智史 2018年度5月書評王最近は句会をやりたいです。 一九七〇年代の終わり頃、『ファミリー・ライフ』の主人公である八歳の少年アジェは、インドのデリーから一家で米国へ移り住む。兄は猛勉強の末、入学を希望する理科高校の試験に見事合格。…

便秘で悩み苦しむ人におすすめしたい3冊

書いた人:林亮子 2018年5月度書評王韓国のドラマ、小説、映画が好きな30代。時折「ダ・ヴィンチニュース」(https://ddnavi.com)に書評記事を書いています。Twitterアカウント:@ahirudada ・パク・ミンギュ「ヤクルトおばさん」(『カステラ』所収、ヒョ…

ケーシー高峰にお薦めしたい3作

書いた人:藤井勉 2018年4月度書評王共著で参加しています『村上春樹の100曲』(立東舎)が6月15日に発売されます。http://rittorsha.jp/items/17317417.html ■ノーマン・ロック『雪男たちの国』(柴田元幸 訳、河出書房新社)■藤枝静男「空気頭」(『田紳…

ソフィア・サマター『図書館島』書評

書いた人:鈴木隆詩 2018年3月度書評王フリーライター。アニメや漫画がメインです。以下、最近の仕事。https://bkmr.booklive.jp/complete-comic-in-1volumehttps://akiba-souken.com/article/32832/ 幽霊と旅をする物語だ。 舞台は架空の世界。オロンドリア…

アーネスト・ヘミングウェイ『移動祝祭日』書評

書いた人:白石秀太(しらいししゅうた)2018年2月度社長賞同志社大学文学部美学芸術学科卒。会社員 「敗れざる者」は大学の授業で原文を読んでから忘れられない短編だった。汗でてらつく雄牛の突進、闘牛士の間一髪の回転。すかさず上がるオーレ! 連打され…

レアード・ハント『ネバーホーム』書評

書いた人:田仲真記子 2018年2月社長賞この書評を読んで、『ネバーホーム』を手に取ってくれる人がひとりでもいたら、望外の喜びです。 米国の作家、レアード・ハントの2014年の長編。同じく柴田元幸訳の『インディアナ、インディアナ』、『優しい鬼』に…

マイクル・ビショップ『誰がスティーヴィ・クライを造ったのか?』

書いた人:鈴木隆詩 2018年1月書評王フリーライター。アニメや漫画がメインです。以下、最近の仕事。https://bkmr.booklive.jp/complete-comic-in-1volumehttps://akiba-souken.com/article/32832/ モダン・ホラー小説というジャンルに括られる作品だが、こ…

川上弘美『森へ行きましょう』書評

書いた人:松嶋文乃 2018年1月ゲスト賞元国語の教員。好きな教材は前田愛「ベルリン1888」。 『蛇を踏む』で芥川賞を受賞し、代表作『センセイの鞄』『真鶴』等で、女性の繊細な心理を半歩引いた視点で描いてきた川上弘美の新作。試しに、読み始める前にカバ…

知っているけど知らないことを知りたい人が知っておくべき3冊

書いた人:和田M 2017年12月度トヨザキ社長賞折に触れて何回も読んでいる本ばかり集めました。はじめての三冊書評です。 「知る」ってなんだろう。あの人は漫画のことをよく知っている、と聞いて思い浮かぶのは、古今東西のいろんな漫画を読んでいて、作者の…

柞刈湯葉『横浜駅SF』

書いた人:たの 2017年12月度ゲスト賞ジャム作りが趣味で講座ではジャムおじさんとして過ごしています。最近はボードゲームにはまって、ボドゲおじさんです。 設定勝ちだ。 本著のぶっとんだ設定に思わずニヤりとしてしまうに違いない。横浜駅は永遠に自己増…

エンリーケ・ビラ=マタス『パリに終わりはこない』書評

書いた人:鈴木隆詩 2017年10月度トヨザキ社長賞フリーライター。最近はさぼってばかりいます。 〈私がデュラスの屋根裏部屋でしていたのは、基本的にヘミングウェイが『移動祝祭日』で語っているような作家生活だった。〉 これはエンリーケ・ビラ=マタスが…