書評王の島

トヨザキ社長こと豊崎由美さんが講師をつとめる書評講座で、書評王に選ばれた原稿を紹介するブログです。

ムツゴロウさんにおすすめしたい3冊

書いた人:藤井勉 2016年4月書評王
会社員、共著に『村上春樹を音楽で読み解く』(日本文芸社)。
「エキレビ!」でレビューを書いております。
http://www.excite.co.jp/News/review/author/kawaibuchou/

 

 ムツゴロウさん、はじめまして!1月29日の毎日新聞に掲載されたインタビュー、読みました。〈熊とか馬とかを命がかかっちゃうくらい愛するんです。だけど70を超えたころから、ふーっとなくなったんですね〉という発言にはびっくりしました。原因は不明とのことですが、解明したくはありませんか?
 飴屋法水という人がいます。2014年に『ブルーシート』で岸田國士戯曲賞を受賞した劇作家・演出家にして、現代美術、パフォーマンスライブなど活動は多岐に渡ります。1995年から2003年には、珍獣専門のペットショップ「動物堂」を開いていたこともありました。当時の経験をもとに動物の飼い方を指南するエッセイ『キミは珍獣(ケダモノ)と暮らせるか?』(文春文庫PLUS)は、今のムツゴロウさんにとって興味深い内容のはずです。飴屋は本書で、動物の飼育がいかに無駄な行為かを読者に説きます。たとえば、「動物は純粋」という世間の幻想に、〈自らの食欲、性欲に対して、貪欲なまでに純粋。(略)自分にウソをつかないだけで、他人のことはダマシますよ、ヤツら〉と警告を鳴らします。安易に動物を飼おうとする人には、〈別にそんなに楽しくない(略)飼っていても、毎日は極めて単調な日々なのだ〉と現実を突きつけます。そして、それでも一緒に暮らしたいという得体の知れない欲望こそが「愛」であると定義するのです。動物愛を論理的に語れる彼なら、ムツゴロウさんの気持ちの変化も読み解けるに違いありません。

  ただ、テレビで「ムツゴロウとゆかいな仲間たち」を見てきた世代としては、動物に夢中であり続けてほしいとも思うのです。熊とか馬にのめり込めないなら、ホルヘ・ルイス・ボルヘスの『幻獣辞典』(柳瀬尚紀訳、河出文庫)があるじゃないかと思うのです。架空の生き物である幻獣を、古今東西の伝説や文学作品から100種類以上も紹介する本書。読めばきっと、愛情を注ぎたくなる幻獣が見つかるはずです。頭が100個ある海の怪物「百頭」に対して、一個一個の頭をなでる内にスタミナ切れを起こすムツゴロウさん。冥界の番犬「ケルベロス」とじゃれ合おうとして、地獄に連れていかれそうになるムツゴロウさん。想像するだけで、ワクワクしてきます。脳内にもムツゴロウ動物王国を建設して、架空の動物とのふれ合いを楽しまれてはいかがでしょうか?

幻獣辞典 (河出文庫)

幻獣辞典 (河出文庫)

 

 でも、今は小説の執筆に夢中とのことで、無理にとは申しません。ブラジルを舞台に、ブラジル人の楽天的な生き方を見習おうと訴える内容だそうですね。でしたら、マリオ・ヂ・アンドラ―ヂの『マクナイーマ―つかみどころのない英雄』(福嶋伸洋訳、松籟社)は押えておくべきでしょう。主人公マクナイーマはブラジルのジャングル奥地で生まれた、3人兄弟の末っ子。〈あぁ!めんどくさ!……〉が口癖で、なぜか英雄と呼ばれています。母の死をきっかけに、兄たちとあてのない旅に出たマクナイーマ。道中、森の神・シーと結婚するも死別し、川で失くした彼女の遺品を探しにサンパウロへ向かうも、女遊びにハマって時間と財産を浪費。サルに騙されて自分の睾丸を叩き潰して死にかけ、兄弟喧嘩でぶつけられたボールを蹴飛ばして、サッカーの始祖にもなります……って、どんな話だ?果たして彼は、本当に英雄なのか?読者の詮索もどこ吹く風と、喜びも悲しみも何もかも〈めんどくさ!〉で片付けてしまうマクナイーマ。その能天気さに、バカ負けすること必至です。そんなブラジル人の国民性を象徴するといわれる主人公とキャラの近い日本人を、私は知っています。ライオンに指を噛まれて中指の第一関節から先を失ったエピソードを、トーク番組で笑い話として語るムツゴロウさん、あなたです。いっそ自伝的小説を書けば、ムツゴロウさんの思い描く作品になりそうな気もします。とにかく、完成を楽しみにしています!

マクナイーマ―つかみどころのない英雄 (創造するラテンアメリカ)

マクナイーマ―つかみどころのない英雄 (創造するラテンアメリカ)